📚連載の趣旨
インディペンデント・カルチャー・マガジンANTENNAが発行する雑誌『OUT OF SIGHT!!!』の新号制作が本格的に始まりました。3冊目のテーマは「地域と芸術祭、あの前後」。このメールマガジンでは、今号より制作に関わることになった大城が『OUT OF SIGHT!!!Vol.3』の企画から、制作、そして流通するまでを追っていきます。
🤔『OUT OF SIGHT!!!』につながる些細なきっかけ
些細なきっかけが後々大きな存在を持つことに気づいたのはつい最近のことで、その気づきが確信に変わったのは、ANTENNAのスタッフとして、『OUT OF SIGHT!!!』の制作チームに参加した時のことだったと思う。いま、この原稿と向き合いながらそのきっかけを思い出している。
昨年の冬、京都の映画館〈出町座〉で『OUT OF SIGHT!!! vol.2 アジアの映画と、その湿度』という本を手に取った。ずっしりと重みのある情報が、エッセイや写真によって軽やかに綴じられた一冊。美しい文章が紡がれている次のページにはアジアの湿度を切り取った写真が掲載されていてめくるのが楽しい。歴史や文化が複雑に絡まったアジアを映画を入口に切り開くというコンセプトは後から知ったことで、当時はあまり気にしていなかった。しかし、深夜の映画館の一角でその雑誌を手にとった、という小さなことが、今振り返ると大きな出来事だったと思う。
その出来事から1ヶ月経ったころ、ANTENNAのアシスタントスタッフの募集に応募して、この春からメディアのメンバーとして活動に参加することになった。『OUT OF SIGHT!!!』のプロジェクトに加わったのは5月中旬のことで、これから怒涛の日々を過ごすことなんて知らない当時の呑気な自分がいたことを思い出す。
🤔雑誌のタイトルのこと
『OUT OF SIGHT!!!』はこれまでに「京都と音楽と、この10年」「アジアの映画と、その湿度」の2冊を刊行している。そして、今年の秋と来年の2回に分けて出版する予定の新号は「地域の芸術祭、あの前後(仮)」というイシューを掲げて制作が進められている。
ひょんなことからこのメールマガジンを始めることとなったが、いざ書こうとなるとキーボードを打つ手がぴたりと止まってしまう。止まってしまうのは、自分が『OUT OF SIGHT!!!』という雑誌について知らないことが多いからだ。まずはタイトルを手がかりに、この雑誌が目指しているものを改めて考えてみた。
「out of sight」の意味を辞書で引いてみると、以下とあった。
1. 見えないところに
2.〔価格・基準などが〕法外な、とてつもない
3. とても素晴らしい、際立っている
ページをめくりながら、タイトルに込められている意味を考える。これまで気づかなかった盲点にスポットライトを当てるということだろうか。あるいは、地域の中でスポットライトが当たっているシーンを見つける、ということかもしれない。しばらく考えてぼんやりと見えてきた『OUT OF SIGHT!!!』像。それが正しいのかはわからない。
あらゆるものには名前がある。例えば、最近見た映画、この前買った洋服のブランド、今朝食べたもの、それから、本。デスクのすぐ隣の棚に並んでいる本の背表紙に目を向けて、いつか読んだ小説を手に取る。物語が佳境を迎える時に本の名前の意味に気づく、そんなハッとさせられる瞬間があったことをページをめくりながら思い出す。タイトルと内容の繋がり。
もう一度本棚を見て、ナンバリングされた同タイトルの雑誌を手にとる。手元にある『BRUTUS』は今年のものと、数年前のもの。その雑誌はある一貫したコンセプトに沿って構成されていて、内容は違えど同じレールの上を走っているように見える。何年も変わらないそのレールは電車の線路みたいだ。読み始めてから読み終わるまで、制作者が用意したレールを走る私たちは電車の乗客のようで、雑誌の名前を、阪急電車とかJRといったブランドとして見ているのかもしれない。
読者は意識しようと思わなければ、雑誌のタイトルについて考えることなんてほとんどないけれど、制作者は雑誌の名前やコンセプトが大きな意味を持つことを知っている。そう考えると、雑誌の名前は読者にとってあるものというよりも、制作者が一貫した考えを持ち続けるためにあるものと捉えることができそうだ。
🤔一つひとつ、分からなさを埋めていく
OUT OF SIGHT Vol.3の制作チームは現在4人。制作を続けている編集長の堤大樹さんと、フォトグラファーの岡安いつ美さん、アートディレクターの小林誠太さんの3人は『OUT OF SIGHT!!!』のことも雑誌のことも、きっとよく知っている。だから、この3人が何を考えて雑誌のコンテンツを作っているのかを知ることで、一つの雑誌ができるまでのプロセスと、『OUT OF SIGHT!!!』像がはっきりと見えてくるのではないかと思っている。
6月下旬に1回目の台湾取材を終えて8月中旬となった今、これまでに立ててきた企画がもぞもぞと動き出している。その中で私は、制作に加わりながらチームの思考や悩みを拾い集めて発信することを役割として受け取った。一つひとつ、分からなさを埋めていくように、この雑誌を紐解いていきたい。
もうじきプロジェクトの会議が始まる時間になる。毎週この時間になると少し緊張する。雑誌づくりの輪郭が、少しでも掴めると良いなと思いながら、Zoomのリンクをクリックする。
大城咲和 プロフィール
2002年生まれ。京都市立芸術大学 美術学部 総合芸術学科在学。今年の春からANTENNAスタッフとして記事の執筆などをしています。つよくてやさしい言葉が好き。暮らし時々アグレッシブ。休日は窓のない部屋で本を読んでいます。